オンラインコミュニティ「マネーリテラシーの森」では月に1回、参加者がお金に関する勉強会を開催しています。今月は、私がブロックチェーンを応用したサービスであるDeFi(Decentralized Finance、ディーファイ、分散型金融)に関するプレゼンを行いました。本記事ではその資料を説明しながら、DeFiの本質をできるだけわかりやすく解説しています。なお、具体的な資産運用方法などについては触れていません。
なお、本記事は、DeFiでの資産運用を推奨するものではなく、情報提供を目的としております。資産運用に関することは自己責任でお願いします。
個人投資家はまだDeFiを知らない
さて、事前にTwitterにてDeFiについて知っているかアンケートをとったところ、以下のような結果が出ました。
私のアカウントの周りには個人投資家が集まっており、資産運用や金融に詳しい方が多数いますが、それでも76%が知らないということがわかりました。
私自身もこの分野に関しては素人ではありますが、金融・決済に関わるエンジニアとして仕事をしておりますので、ひとまず概念くらいは理解しておこうと思っています。本記事では、いくつか資料を読んだ上で、本質的な内容を凝縮してお伝えします。
DeFiとは
DeFi(Decentralized Finance、ディーファイ、分散型金融)とは、ブロックチェーン上で金融サービスを提供するものです。金融と言っても、Ethreum(イーサリアム)などのブロックチェーン上で表現する通貨を利用します。つまり法定通貨ではなく暗号資産(仮想通貨)を使います。
異なる暗号資産同士の交換ができる取引所のサービス(DEX)、暗号資産の貸し借りができるレンディングサービスなどがすでに動いています。
さて、ついこの間、Twitterでとあるインフルエンサーが紹介していたIRON(アイアン)、TITAN(チタン)というDeFiの話が盛り上がりました。
このIRONというものは、一言でいうと「びた銭」づくりをブロックチェーン上で行ったものになります。「びた銭」づくりとは、銀貨などお金の価値の担保になる金属を薄めて、純度の低い偽のお金を勝手に作ることです。
結局、これは取り付け騒ぎが発生して、TITANは1日にして約40億分の1に価値が暴落するという自体になりました。もし、投資家が仕組みを知らずになんとなくDeFiは儲かりそうと参加していたら、大損していたかもしれません。
これからは、個人投資家は金融リテラシーとしてブロックチェーンやDeFiについても知っておくことが大切だと思います。
DeFi理解への第一歩
DeFiの理解のためには、複数の知識を広く抑えておく必要があります。義務教育のレベルから、金融・経済、さらにはITの知識も必須になります。
特に、「お金の本質」の理解、ビットコインを始めとしたブロックチェーン技術の仕組みを理解しておくことが重要になります。これらについて、まずは説明しておきます。
お金の本質
さて、「お金」とは根本的には一体何なのでしょうか。ここの認識がずれていると、暗号資産は理解できません。答えから言ってしまうと、「お金」とはずばり「共同幻想」です。つまり、「みんなが価値があると信用している対象」がお金です。
これについて詳しく知りたい方は、「サピエンス全史」が面白く、わかりやすいと思います。是非一読をおすすめします(サピエンス全史では、この共同幻想の能力があったから、ホモ・サピエンスが繁栄したと主張されています)。
そして、人々が「価値をある」と信用するものは、時代によって変わっていきます。
貝や貴金属などの実際に存在する物質、そしてやがて国や企業を信用するようになり、さらにはビットコインの登場により、一部の人々は「システムそのものを信用する」ようになりました。この人々が「システムを信用する」ようになったというのがビットコインの革命です。
DeFiでなんで金融サービスができるの?
DeFiはなぜ金融サービスができるのでしょうか。それは、ブロックチェーン上でアプリケーションを実行できるからです。つまり、ブロックチェーン上に存在する暗号資産を、利用者が合意した取引内容(契約)に基づき、プログラムによって自動的に動かすことができるからです。このスマートコントラクトという仕組みは、Ethreum(イーサリアム)が最初に実装しました。
Ethreumも元をたどると、ビットコインの仕組みを発展させたものになります。なので、
これを理解するには、まずは、ブロックチェーンの技術の大本であるビットコインの仕組みについて理解する必要があります。
ビットコインの仕組みについては、本ブログでも仕組みをわかりやすく説明していますので、詳しくは、以下の記事をご覧ください。
台湾のIT大臣オードリー・タンさんへのインタビュー動画がおもしろい
ブロックチェーンについて興味があるけど、あまり良くわかっていないという場合は、まず台湾の天才IT大臣であるオードリー・タンさんへのインタビュー動画を観てみるとよいと思います。
タンさんは、ブロックチェーンやDeFiについて、本質的なことをわかりやすく説明していますので、とてもおもしろいです。
私が特に重要だと思ったポイントは以下です。
- ブロックチェーンの本質は相互信用の敷居を下げることである
- DeFiを発展させるためには、みんなが仕組みを理解する必要がある
- みんなが仕組みを知りたがるような起爆剤となる盛り上がりが必要
既存の金融サービスとDeFiの違い
さて、金融サービスは、銀行などもすでに提供していますが、これらとDeFiは何が違うのでしょうか。
銀行などの既存の金融サービスは、企業などの組織が主体となりサービスを提供し、システムや開発・運営もその組織が抱えています。責任の主体もその組織になります。一方で、DeFiについては、DeFi自身がサービスを提供しています。運営コミュニティが方針を決め、開発コミュニティがDeFiのシステムを開発しますが、これらのコミュニティに責任はありません。
その他の違いについては、以下の表にまとめてみました。
DeFiと金融・ITのトレンド
ITはここ十数年、自律・分散型へのトレンドが続いており、ブロックチェーンもその中の主要な一つの技術基盤だとみなすことができると思っています。
DeFiだけでなく、STO(Security Token Offering)という、証券などをブロックチェーンで管理するものについては、すでにSBI証券など日本の金融機関が社債を発行しています。
DeFiの具体例
DeFiの具体的なサービスについて、有名な2つのものをご紹介します。
これらは以下の日銀レポートにて紹介されていますので、詳細を知りたい方は以下の資料を参照してみてください。
暗号資産における分散型金融 ―自律的な金融サービスの登場とガバナンスの模索
DEX(分散型取引所) Uniswap
DEX(暗号資産の取引所)の一つであるUniswapを紹介します。
Uniswapでは、暗号資産間の交換レートが「図表2」の数式にて自動的に決められます。
暗号資産AがUniswap内に不足しているときほど、暗号資産Aを預け入れると良いレートでほか暗号資産に交換できます。
また、流動性供給といって、Uniswapに暗号通貨のペアを預け入れることで流動性トークンがもらえます。
また、この流動性トークンを返すときに報酬が得られます。
レンディング Compound
レンディング(暗号資産の貸し借り)の一つであるCompoundを紹介します。
貸し手は暗号資産をCompoundに預け入れることで、預り証として「cToken」をもらえます。貸し手は、このcTokenをCompoundに返すときに利息が得られます。
また、暗号資産を借りるときは、借り手はcTokenを担保にして、暗号資産を借りることができます。借りた暗号資産に利息をつけて返すことで、cTokenを回収することができます。
DeFiでの運用と注意点
DeFiでの運用はイールドファーミング(利回り農業)と呼ばれています。これには主に以下のような手法があります。
- レンディングサービスに暗号資産を貸すことによって利息をもらう
- DEXに暗号資産のペアを預け入れることで流動性トークンをもらう
- DEX間の価格差を利用して裁定取引
- 暗号通貨を預け入れることでガバナンストークン(DeFi運営の投票券)をもらい、そのトークンの値上がり益を狙う
また、運用における注意点としては、以下のようなものがあります。
- 投資家保護の仕組みがない。損をしても泣き寝入り
- DeFiのプログラムのバグを突かれて損失が出る
- DeFiのシステム自体がハッキングされる
- 運営母体が悪事を働く
- DeFiの独自トークンが暴落する
株式投資などの法律が整備されており、投資家保護の仕組みがあるものに比べて、極めてリスクが高いと言えると思います。
もしDeFiで資産運用するのであれば、これらの仕組みやリスクをよく理解した上で、すべて失っても良いお金でやるべきだと思います。また、税金の処理などについても細心の注意を払う必要があるでしょう。
参考資料
今回の発表をするにあたって参考にした資料を掲載します。